成年後見制度に関する
国賠資料

国家賠償が認められた訴訟と認められなかった訴訟について

成年後見人横領、国の責任認めず 
東京高裁、9千万円被害

家裁の監督責任否定

東京地裁 

2017年7月19日

成年後見人だった弁護士に預金を横領されたのは、財産調査を怠った東京家裁に監督責任があるとして、高齢女性2人が国に約7300万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁(鈴木正紀裁判長)は19日、請求を棄却した。

 鈴木裁判長は、「高い職業倫理に照らし、弁護士の場合は必要最低限の報告を求める」とした東京家裁の運用は違法と言えないと指摘。預金通帳の写しや収支報告書など詳細な書類を提出させるべきだったとする原告側の主張を退けた。 

東京高裁 

2018年1月18日

成年後見人の元弁護士に約9千万円を横領されたのは、後見人を選任した東京家裁の監督が不適切だったのが原因だとして、都内の女性2人(うち1人は死亡)が国に計約7300万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が17日、東京高裁であった。杉原則彦裁判長は、「家裁の対応が不適切とは言えない」として請求を棄却した

判決について

Comment1

東京地判 2017.7.19
この横領弁護士は「キャバクラ」で浪費の末に横領行為を繰り返した渡部直樹元弁護士(第一東京)である。渡部元弁護士は、成年後見人に就任時に約1億円を横領し刑事告発され、実刑判決を下された人物である。

渡部元弁護士の横領行為は常習で、キャバクラに行くために「ATM」感覚で被後見人の預金を引き出していたのであるから、家裁も報告書などを確認すれば不自然な金銭の流れは確認できたはずである。

この訴訟の中では渡部元弁護士の解任を求める申し立てを家裁が当初却下するなどしたことが原因で、横領行為が行われたと原告側が主張していたという報道もある。原告が渡部元弁護士に解任を求めたという事は不正の疑いがあったからに他ならないだろう。その原告の申し立てを却下した東京家裁の判断に問題があったと考えるのは当然であり、最低でも監督人ぐらい選任するべきだったのである。

今回の判決では「高い職業倫理に照らし、弁護士の場合は必要最低限の報告を求める」とした東京家裁の運用は違法とは言えないと裁判所は判断しているが、このような判決に納得する国民は極めて少数であろう。

「高い職業倫理」を持つ弁護士と判決は述べているが、実際には東京家裁は平成25年から後見人となった弁護士の不祥事対策として弁護士会の推薦を受けた弁護士しか後見人に選任しない運用を始めているのである。
このような動きと今回の判決は矛盾すると筆者は考えるが、司法制度というのは「お仲間」をかばうために機能するらしい。こんな司法制度など、国民は信用しないだろう。 (鎌倉九郎さんWebsiteより)

成年後見人の財産管理で使途不明金「家事審判官の監督責任」認定…国に1300万円賠償命令 

「家事審判官の監督責任」認定

京都地裁

2018年1月10日

成年後見人の財産管理で多額の使途不明金が生じたのは、京都家裁の家事審判官(裁判官)や調査官が監督を怠ったからだとして、京都府に住む被後見人の女性の兄が国に4400万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、京都地裁(久保田浩史裁判長)は10日、家事審判官の責任を認め、国に約1300万円の支払いを命じた。

 判決によると、女性の後見人は継母で、平成元年から女性が亡くなるまで約20年間、財産を管理。兄は女性の遺産相続人だった。継母は女性の預金口座から払い戻しを繰り返し、19年(2007年)3月以降で1900万円余りの使途不明金があったが、家事審判官は「後見事務の遂行状況は良好」などとして事態を把握せず、確認をしなかった。継母は2012年に死亡した。

 久保田裁判長は、家事審判官が19年(2007年)以降、継母の事務が適切に行われているか確認しなかったことを「成年後見人の監督の目的、範囲を著しく逸脱した」と指摘。継母はそれ以前にも使途不明金や不適切な支出が指摘されていたことを踏まえ、「確認の手続きを取っていれば、不適切な支出を防止できた」とした。 
産経WESTより)

事件名

記録(判例)をダウンロード

平成27(ワ)2090
事件名   国家賠償請求事件
裁判年月日  平成30年1月10日
裁判所名・部   京都地方裁判所  第3民事部 

国に231万円賠償命令 後見人横領
広島高裁が一審判決変更

横領することを認識しあるいは認識しえたときは、国賠法上の責任を負う。

広島地裁

2012年2月20日

家裁が選任した成年後見人の親類女性(42)に財産を横領されたとして、広島県福山市の男性(55)が国に約3500万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、広島高裁は20日、男性側敗訴の一審広島地裁判決を変更し、231万円の支払いを命じた。

判決理由で宇田川基裁判長は、横領発覚後に家裁の家事審判官らが防止のため監督しなかったのは「著しく合理性を欠き、過失は明らか」と指摘した。一方、女性に知的障害があり、横領することを審判官らが選任の際に認識できたとの男性側主張は退けた。

判決によると、男性は2001年に交通事故で植物状態になり、保険会社との和解金を管理するため、親類女性が広島家裁福山支部の面接を経て成年後見人になった。4770万円を受け取り、05~06年にうち約3794万円を横領、業務上横領罪で有罪が確定している。

広島家裁は「判決内容のコメントは差し控えたい」としている。原告代理人の池田直樹弁護士は「裁判所の過失が認められたのは大きな成果」とコメントした。
(2012/2/21 日本経済新聞より)


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事件番号 平成22(ネ)450
事件名 損害賠償請求控訴事件
裁判年月日  平成24年2月20日
裁判所名・部   広島高等裁判所  第4部
結果  その他

Comment

本事案は法定後見人が被後見人の財産を着服横領してたため、裁判所も国家賠償法上の責任を問われたものです。


 この事案の被害者は交通事故で脳挫傷、意識障害、四肢麻痺等の後遺症を負い、ついには植物状態に陥った。被害者に妻子はおらず、姪として親戚づきあいをしていた後見人候補者が定期的に見舞い、おしめやパジャマの購入をするなど世話をしていた。そのような状況下で保険金約4,800万円の授受をさせるため、保険会社が当該候補者に後見審判申立てをするようもちかけた。しかし当該候補者には精神年齢8歳4ヶ月程度の精神遅滞障害があり、法定後見人には選任されたものの、被害者の財産約3,500万円を着服横領してしまった。
 この後見人は業務上横領罪に問われて懲役1年8月の実刑判決を受けましたが、家庭裁判所も後見人選任上の違法と、3,500万円にも及ぶ着服を看過した監督上の違法があったとして、国家賠償法上の責任が問われたものです。

 前審の地裁は、家庭裁判所の責任は認めませんでしたが、高裁はこれを変更して231万円について次の理由で国家賠償法上の責任を認めました。
 まず後見人候補者が知的障害者であることに気づかず、後見人に選任して多額の財産管理をさせたことについては、後見人に選任した際、財産を横領することを認識していたと認めるに足る証拠はない。また、財産を横領することを容易に認識し得たということもできないとして、後見人選任上の責任は認めませんでした。
 また後見人選任の1年後、家庭裁判所が第一回目の後見監督をした際に、姪個人名義の口座に入っていた現金を後見人名義の口座に移し替えるよう指導し、姪はそれに従ったことから第一回目の後見監督時点で横領行為を容易に認識し得たということはできないとして、家庭裁判所に違法はないとしました。
 しかし第二回目の後見監督までの約1年間に、後見人は飲食費、遊興費、交際する男性の家の工事、知人への貸与などで3,500万円も費消してしまった。これに家庭裁判所は気づいており、後見人を解任すべきだったのですが、それを怠ったため横領発覚から7ヶ月経ってようやく預金口座の支払い停止措置がとられた。
 第二回目の後見監督以降について高裁は、家庭裁判所は職権で後見人を解任することができるが、これを防止する監督処分をしなかったことは、家事審判官に与えられた権限を逸脱して著しく合理性を欠くと認められる場合にあたり、国家賠償法の適用上違法になるとし、横領発覚以後の被害拡大について家庭裁判所の責任を認めました。

  本事案は交通事故の脳死という、本人の意思が関与しえない突発的な状況下での後見発動であり、多少なりとも時間的余裕がある老人の場合とは若干異なります。また後見人になったのが精神遅滞障害者であるのみならず、実はその母親(被害者の姉)も精神障害者で、後見人と母親が共謀して多額の金銭を費消してしまったという特殊なケースです。
  任意後見でも法定後見でも、親族側は裁判所や第三者からの介入を好まないと言われていますが、親族間の摩擦回避という見地から、後見プロセスのどこかに第三者の意見なり知見を反映させることが必要かと思われます。(堀川行政書士Website)

前審 広島地裁福山支部

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平成21年3月24日宣告
平成18年(わ)第392号,平成19年(わ)第60号,同第80号,同第81

業務上横領被告事件


原審裁判所名   広島地方裁判所  福山支部
原審事件番号  平成21(ワ)252
裁判年月日  2009年3月24日
原審結果     棄却 

判示事項の要旨
 1 成年後見人が被後見人の財産を横領した場合において,家事審判官による成年後見人の選任や後見監督が,被害を受けた被後見人との関係で国家賠償法1条1項の適用上違法となるのは,具体的事情の下において,家事審判官に与えられた権限を逸脱して著しく合理性を欠くと認められる場合に限られる。
2 成年後見人らが被後見人の預金から金員を払い戻してこれを着服するという横領を行っていたにもかかわらず,これを認識した家事審判官が更なる横領を防止する適切な監督処分をしなかったことが,家事審判官に与えられた権限を逸脱して著しく合理性を欠くと認められる場合に当たるとされた事例

成年後見監督人に賠償命令 国への請求は棄却

大阪地裁酒井支部

成年後見監督人選任事案において家庭裁判所の後見監督に違法があるとして国家賠償請求がなされた事例 

 
(1)大阪地堺支判平成25年3月14日(以下「堺支部判決」という)弁護士を成年後見監督人に選任していた事案において、原告の当時の成年後見人であった者らが原告の預貯金を払い戻して横領したことについて、成年後見監督人であった乙弁護士に対しては、成年後見監督人としての善管注意義務に違反したとして債務不履行に基づき、また、国に対しては、家事審判官による後見事務の監督に違法があったとして国家賠償法1条1項に基づき、連帯して損害金4479万3458円及び遅延損害金の支払を求めた事案についての判決である。後見監督人であった者に対する請求については認容(認容額4,094万1,404円及び遅延損害金)、国家賠償請求については棄却した。


Сomment

No.1

堺支部判決は、国家賠償請求を否定した判断理由の中で、「成年後見等事件の急増に伴い、後見等監督処分事件が累積的に増加している状況の下、あえて専門職の後見監督人を選任した事案に関しては、善良なる管理者の注意をもって成年後見人の後見事務を監督する責務を有する後見監督人から、必要に応じた後見事務の報告等されることが期待でき、後見監督人の報告等により不正行為等が疑われるような情報に接したときに、必要に応じて、前記監督権限を行使するものとしたとしても、それ自体は不合理とはいえない。」と判示しているが、この見解は、成年後見監督人選任事案における家庭裁判所の後見監督のあり方を検討するうえで重要な意味を持つ

Comment

No.2

 国家賠償法1条1項は、「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員
が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害
を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる」と規
定している。本事案では、成年後見人の選任・監督に当たった家事審判
官の職務執行が「違法」と言えるかどうかが問題となっている。

その他の資料

岐阜地方裁判所 平成26年10月29日平成25年(ワ)427号、
及びその控訴審である名古屋高判平成27年12月17日平成26年(ネ)1068号32  


裁判官が弁護士に対して訴訟外で行った発言が問題とされた事案である。本件の原告弁護士は、前記( 1 )で検討した名古屋地判平成15年 5 月30日平成10年(ワ)3372号の原告弁護士と同一人物であり、地裁支部長であった本件裁判官から、かつて選任されていた後見人としての職務内容についての不備を指摘されたうえ、被後見人の親族が裁判所や原告に対して苦情を申し立ててきていることを強調され、
100万円(後に50万円)の支払を任意で行う旨の即決和解の申立てをしない限り、弁護士懲
戒請求の対象となる旨の発言を繰り返し受けたとして、精神的損害に基づく国家賠償を求め
た。なお、実際には、被後見人の財産から借財をした者からの回収が困難となっていた事実
は、少なくとも裁判官が具体的に指摘した人物については、原告が居所を訪ねて説得したと
ころ、任意の支払がなされたようである。また、本件原告は、一時は弁護士業務に関する責
任保険で支払を行うことを前提に保険会社と協議するなどしたが、結局被後見人に対して支
払を行うことはなかった。


第 1 審は、本件裁判官が原告に対して懲戒請求の対象となる等と発言した事実自体が認定できないなどとして、原告の請求を棄却した。これに対して控訴審は、本件裁判官の発言自体については、本件が懲戒相当の事案であったことを、原告本人及び原告の代理人弁護士に
対して述べたことを抽象的に認定しつつ、かかる発言は親族の意向を伝えるためであったと
判示し、結論として原告からの控訴を棄却した。但し、第 1 審判決と控訴審判決との間に、
原告が本件裁判官を刑事告訴していた事案に関する付審判請求についての判断が、岐阜地決
平成27年10月 9 日平成27年(つ)1 号34として下されており、当該決定では本件発言について、 次のように判示されている。

筑波大学准教授 星野豊氏 〔裁判所に対する責任追及訴訟の現状と問題点〕より抜粋

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国賠が認められるケースと認められないケース

成年後見制度と国の責任 

リーガルトピックス  

国賠を認めたケース(広島)

1. 成年後見制度は、民法の一部を改正する法律案、任意後見契約に関する法律、民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律、後見登記等に関する法律という4つの法律をセットにして、2000年4月1日、介護保険法と同時に施行された制度です。その制度趣旨は、概要、判断能力(事理弁識能力)の不十分な者を保護するため、一定の場合に本人の行為能力を制限するとともに本人のために法律行為を行い、または、本人による法律行為を助ける者を選任するということにあります。

 介護保険制度が広く利用されていることは周知のとおりですが、成年後見制度も以下に示す通り、申立件数(後見、保佐・補助を含む総数)は増加の一途を辿っています(最高裁 「成年後見関係事件の概況 平成24年1月~12月」から引用)。



  年      申立件数 (うち、後見開始案件 )

平成20年  26,459件 ( 22,632件 )

平成21年   27,397件 (22,983件 )

平成22年 30,079件 (24,905件 )

平成23年   31,402件 ( 25,905件)

平成24年   34,689件 (28,472件)



 しかしながら、昨今は、後見人による不祥事(成年被後見人の預貯金の横領)も少なからず発生しており、そのことは、成年後見制度に対する不信を招いてしまう由々しき事態です。

 本稿では、成年後見人の不祥事があった事案において、国の責任(家庭裁判所家事審判官の職務上の義務違背の有無)が争点になった事案2件(一件は国の責任が認められ、もう一件は国の責任が否定されました)をご紹介し、後見人に対する国の監督責任について考えてみたいと思います。

2 . まず、国の責任を認めたと数少ない案件として、広島高等裁判所平成24年2月20日判決(確定)があります。

 この案件は、以下の通り、当初からかなり特殊な案件でした。



申 立 ・・・

被後見人の親族らが、被後見人の高校時代の担任教諭の妻に相談の上、申立てを行った(申立時点で、弁護士や司法書士の関与無し)。


申立のきっかけ ・・・

被後見人が交通事故に遭って植物人間状態となり、加害者が契約していた保険会社から多額の保険金が支払われる見込みになったことから、保険会社の勧めにより、被後見人の親族が成年後見の申立てを行なった(後見開始の審判の後、保険会社との間で和解契約が成立し、4770万円が支払われた)。


申立人自身の問題点 ・・・

申立人は自らを後見人候補者として申立し、調査官調査を経て、申立人が後見人に選任された。しかし、申立人(成年後見人)は、それまでに、中程度精神遅滞と判定されていて障害程度Bの療育手帳が交付されていたのに、調査官調査の段階で、その事実を、裁判所は全く把握できていなかった(申立人からの自己申告も無かった)。


後見人の横領行為と裁判所の対応 ・・・

後見開始の後、2回目の後見監督の際(1年に1度、後見監督事件が立件されて、後見人から裁判所に収支報告をする旨、当初に定められていた)の調査官の調査によって3600万円余の使途不明金があることが発覚した。調査官は担当家事審判官(裁判官)に対して、使途不明金発覚の事実、新たに第三者(弁護士)を後見人に加えて財産管理をその者に任せ、従前の後見人の権限を身上監護のみに留める必要があること等を報告した。

担当家事審判官は、上記の調査報告書が提出されてから約4か月後に弁護士を成年後見人に選任し、更に、それから約3か月後に従来の後見人を解任する旨、審判をした。

上記調査報告書が提出されてから、二人目の後見人が選任されるまでの間に、従前の後見人は、更に、231万円を着服していた。


刑事事件 ・・・

裁判所は、従前の後見人を業務上横領により告発し、懲役1年8月の刑に処する旨の判決が言い渡された。尚、一連の着服のうち、165万円余の着服行為については、被告人(従前の後見人)は躁状態及び知的障害のため心神耗弱状態にあったと認定されたが、それ以外の大部分の着服行為に関しては責任能力が認められた。 



 以上の経過のもとに、新たに後見人に選任された弁護士が、国に対して、損害賠償請求訴訟を提起しました。

3 . 判決では、従前の後見人を解任したのが横領発覚から7か月も後のことであり、横領行為を阻止したのは新たな後見人が金融機関に対して、従前の後見人が管理していた預金の支払いを停止するように求めたことによるものであることに着目し、担当家事審判官が、放置すれば更なる横領がなされる可能性が高いことを認識しながらそれを防止すべき適切なき監督処分をしなかった(要するに、家事審判官の監督が遅きに失した)ことは国家賠償法1条所定の適用上違法であり、過失があったとして、金231万円の範囲で、原告の請求を認めました。

国賠が認められなかったケース(大阪)


4 .  他方、大阪地方裁判所堺支部平成25年3月14日判決の事例は次の通りです。
 この事案は、成年後見監督人として弁護士が選任されていた事案で、成年後見人に選任されていた被後見人の親族が被後見人の預貯金を横領していました。後見監督人は、文字通り後見人の職務遂行を監督すべき立場にあり、そのために、何時にても後見人に対して後見事務の報告を請求し、財産目録の提出を請求する等して、後見事務の調査、本人の財産状況の調査をして、必要に応じて、家庭裁判所の必要な処分の命令を求める申立てを行い、後見人の解任の申立権限も認められています。
 従って、後見監督人の存在は、後見人による適正な後見事務の担保となり、後見人の不祥事に対する大きな防波堤になるはずでした。
 ところが、本件では、後見監督人は、裁判所から具体的な指示が無かったことなどを理由に、後見人に対して、上記の権限を用いて各種書類の提出を求めること等を含め、3年5ヶ月の間、一切の調査をしていませんでした。
そして、この間に、後見人による横領行為が行われてしまいました。
 従って、この後見監督人が、被後見人本人に対して、賠償の責めを負うことは当然のことです。
 問題は、国(裁判所)も、後見人から収支計算書等が提出されていないことに対して、一切、何らの指示も監督もしていなかったことです。
 前述の広島高裁の判決では、
『家事審判官が職権で行う成年後見人の選任やその後見監督は、審判の形式をもって行われるものの、その性質は後見的な立場から行う行政作用に類するもの』
であり、
 『当該裁判官が違法または不当な目的をもって裁判をしたなどの特別事情がある場合に限定されるものではない』と判断しました。
 この法理をもってすれば、大阪地裁堺支部の案件でも、国(家事審判官)が「後見的立場からの監督」を十分に行っていなかったという結論になりそうです。
 しかし、本件では、国の責任は否定されました。判決では、国(家事審判官)は、後見監督人から後見人の不正行為が疑われるような報告を受けたときに必要な監督権限を行使するものであり、後見監督人から不正行為等に関する格別の報告がなされていないときに、裁判所が能動的に調査等の権限を行使しなかったとしても問題ではない、という理由付で、国の責任を否定しました。そして、国が責任を負うべき場合とは、「当該裁判官が違法または不当な目的をもって裁判をしたなどの特別事情がある場合」に限定されるという立場を明示しました。


5 .  以上の通り、後見人の不祥事に対する国(家事審判官)の責任について、二つの判決は異なった立場に立っており、判決結果も異なった内容になりました。
 確かに、冒頭に記載しました通り、成年後見案件が急増している中で、裁判所が、「常に、全事件について」「能動的に」権限を行使しなければならないとすれば、「裁判所がパンクしてしまう」ことは明らかであって、そのような職務姿勢を裁判所に求めることは、現実的ではありません。
 しかし、翻ってみると、成年後見制度は、判断能力が不十分な人たちを保護し、その福利を図るための制度です。その意味で、家事審判官の職務が「後見的で行政的」であることは、間違いありません。
 大阪地裁堺支部の事案では、せっかく後見監督人が選任されていたのに、監督人は全く活動をしていなかったということが明らかになっています。しかも、後見人から裁判所に対して定期的に提出されるべき財産状況の報告書や収支計算書は全く提出されていませんでした。従って、家事審判官としては、少なくとも、後見監督人に対して、監督人として有する調査権限を行使して、後見人に関係書類を提出させるように指導したり、監督人自ら適切な調査を行うように指示監督すべきでした。その意味で、国(家事審判官)が、「後見的立場」からの監督を遺漏なく行っていたとは言い難い事案であることは明らかです。

 後見監督人として弁護士を選任しているから、監督人がちゃんとやってくれるはずである、という裁判所から弁護士への期待があることは当然でしょう。本件の弁護士たる監督人がその期待に添えなかったということは、極めて遺憾なことであり、到底弁解の余地はありません。
 しかし、裁判所が選任した監督人が十分に監督機能を果たしていない兆候があれば、裁判所がそれを監督する最後の砦になります。又、適切な監督権限を行使する能力のない弁護士を監督人に選任してしまったという面では、発生してしまった損害に対して、裁判所(国)も、責任の一端を負うべき立場にあると評価できるでしょう。

 そもそも、裁判制度は、三審制度をとっていること自体、人智や人間の能力に対して全幅の信頼を常に置くことが出来るわけではない、ということを前提としているはずです。
 してみれば、家事審判官の職務の後見性を強調する広島高裁の見解をもって、適正とすべきであると考えます。
以上
                       

後見監督責任に関する一考察
―後見監督に関する 3 つの裁判例を素材として―
(一部抜粋して掲載)

三輪まどか氏

後見監督の責任とその範囲

(1)家庭裁判所の責任
① 広島高裁判決
 広島高裁判決では,家庭裁判所の賠償責任について,次のように述べる。すなわち,「成年後見
の制度(法定後見)の趣旨,目的,後見監督の性質に照らせば,成年後見人が被後見人の財産を横
領した場合に,成年後見人の被後見人に対する損害賠償責任とは別に,家庭裁判所が被後見人に対
し国家賠償責任を負う場合,すなわち,家事審判官の成年後見人の選任や後見監督が被害を受けた
被後見人(ママ) との関係で国家賠償法 1 条 1 項の適用上違法となるのは,具体的事情の下において,家事審判官に与えられた権限が逸脱されて著しく合理性を欠くと認められる場合に限られるというべ きである。そうすると,家事審判官の成年後見人の選任やその後見監督に何らかの不備があったと いうだけでは足りず,家事審判官が,その選任の際に,成年後見人が被後見人の財産を横領することを容易に認識し得たにもかかわらず,その者を成年後見人に選任したとか,成年後見人が横領行
為を行っていることを認識していたか,横領行為を行っていることを容易に認識し得たにもかかわ
らず,更なる被害の発生を防止しなかった場合などに限られるというべきである。なお,被控訴人
は,裁判官の独立や上訴制度による是正制度の存在に照らし,裁判官の職務行為に国家賠償法 1 条
1 項の違法が認められるためには,当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなどその
付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認められるような『特別の事情』が
必要であると主張するが,上記法理は,裁判官が行う争訟の裁判について適用されるものであると
ころ,家事審判官が職権で行う成年後見人の選任やその後見監督は,審判の形式をもって行われる
ものの,その性質は後見的な立場から行う行政作用に類するものであって,争訟の裁判とは性質を
異にするものであるから,上記主張は採用することができない」とした。その上で,これを本件に
ついてみると,第 1 回後見監督において,家事審判官が横領を認識していたと認めるに足りる証拠
はなく,また,470 万円もの支出がなされている点について後見人に尋ねたところ,合理的な説明
をし,さらに,家事審判官から指導された預金管理に従ったため,横領について疑いを抱くことが
なく,その点について著しく合理性を欠くとは言えないとして,家事審判官に違法な点はないとし
た。第 2 回後見監督において,3,600 万円もの使途不明金があり,後見人にその使途を尋ねたところ, 説明ができなかったことから,その事情を知った調査官により家事審判官に対して注意喚起なされ た。このことから,家事審判官は後見人による横領がなされ,放置すると横領が繰り返される可能
性が高いことを認識したにもかかわらず,「防止する監督処分をしなかったことは,家事審判官に
与えられた権限を逸脱して著しく合理性を欠くと認められる場合に当たり,国家賠償法 1 条 1 項の
適用上違法になるというべきである,また,担当家事審判官に過失があったことも明らかである」
と判断された。なお,広島高裁判決において控訴人は,「成年後見制度における人事及び予算等の
態勢を十分整備していないから,担当調査官あるいは担当家事審判官の職務上の注意義務違法を招
き,後見人らの横領をもたらしたとして,最高裁判所担当職員に組織的な未必的,概括的故意があ
る」と主張しているが,これについては,国家賠償請求の理由としては当を得ず,その主張を裏付
ける事実もないとして,認められなかった。 

(1)家庭裁判所の責任 

② 大阪地裁判決
 大阪地裁判決では,2(1)③に述べた家事審判官の職務行為の内容,特質を踏まえた上で,次の
ように判断する。すなわち,「家事審判官による後見事務の監督について,職務上の義務違反があ
るとして国家賠償法上の損害賠償責任が肯定されるためには,争訟の裁判を行うと同様に,家事審
判官が違法若しくは不当な目的をもって権限を行使し,又は家事審判官の権限の行使が甚だしく不
当であるなど,家事審判官がその付与された趣旨に背いて権限を行使し,又は行使しなかったと認
めうるような特別の事情があることを必要とするものと解すべきである。この点につき,原告は,
後見事務の監督については,争訟の裁判に関する最高裁昭和 57 年判決の判示によるのではなく,
一般的な規制権限の不行使の場合と同様に,その権限を定めた法令の趣旨,目的や,その権限の性
質等に照らし,具体的事情の下において,その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を
欠くと認められるときには,国家賠償法上違法と判断されるべきであると主張する。しかし,原告
のこの主張は,独立した判断権を有することなど裁判官の職務行為の内容,特質に照らし,採用す
ることができない」とした。そして,本件につき,後見人により不正な預貯金の払戻しがなされて
いたこと,後見人が自らの経営する会社のために金銭消費貸借を考えていたことについて,ふさわしくないとは感じていたものの,弁護士である後見監督人を選任するなど後見を強化する方策を
とっていることを考慮して,「成年後見等事件の急増に伴い,後見等監督処分事件が累積的に増加
している状況の下,あえて専門職の後見監督人を選任した事案に関しては,善良なる管理者の注意
をもって成年後見人の後見事務を監督する責務を有する後見監督人から,必要に応じた後見事務の
報告等されることが期待でき,後見監督人の報告等により不正行為等が疑われるような情報に接し
たときに,必要に応じて,前記監督権限を行使するものとしたとしても,それ自体は不合理とはい
えない。そして,本件裁判所が不正行為等の兆候に格別接していない状況の下では,家事審判官ら
が能動的に調査等の権限を行使しなかったことをもって,甚だしく不当であるということはできな
い」とした。

③ 家庭裁判所の責任の所在

 以上によれば,家庭裁判所の責任の所在は,その後見監督の法的性質をどう捉えるかによって,
2 つの見解がありうる。すなわち,広島高裁判決のように,家庭裁判所の後見監督は「審判の形式
をもって行われるものの,その性質は後見的な立場から行う行政作用に類するものであって,争訟
の裁判とは性質を異にする」と捉える見解と,大阪地裁判決のように,「独立した判断権を有する
ことなど裁判官の職務行為の内容,特質」から,争訟の裁判と同様と捉える見解である。広島高裁
判決のように解すれば,家事審判官の違法性を問いうるのは,「具体的事情の下において,家事審
判官に与えられた権限が逸脱されて著しく合理性を欠くと認められる場合に限られるというべきで
ある。そうすると,家事審判官の成年後見人の選任やその後見監督に何らかの不備があったという
だけでは足りず,家事審判官が,その選任の際に,成年後見人が被後見人の財産を横領することを
容易に認識し得たにもかかわらず,その者を成年後見人に選任したとか,成年後見人が横領行為を
行っていることを認識していたか,横領行為を行っていることを容易に認識し得たにもかかわらず,
更なる被害の発生を防止しなかった場合などに限られるというべき」ということになる。一方,大
阪地裁判決のように解すれば,「家事審判官が違法若しくは不当な目的をもって権限を行使し,又
は家事審判官の権限の行使が甚だしく不当であるなど,家事審判官がその付与された趣旨に背いて
権限を行使し,又は行使しなかったと認めうるような特別の事情があることを必要とするものと解
すべき」ということになる。つまり,広島高裁判決の方が,より広い範囲で責任を問われうる。

抜粋

広島高裁判決と大阪地裁判決の決定的な違いは,どの点からアプローチするかの 違いであるように思われる。すなわち,広島高裁判決を支持する主な理由は,上訴や不服申立てなど救済の道が残されていないこと,裁判所の広範な裁量権,制度趣旨に適う後見的機能であり,被後見人(利用者)の目線で責任を論じているのに対し,大阪地裁判決を支持する主な理由は,裁判官の独立性,司法作用の本質であり,裁判所・裁判官の目線で責任を論じている。言い換えれば,前者が求めるのは,利用者に資する制度の趣旨,制度の信頼性・安定性であり,後者が求めるのは,司法の独立・安定性といえよう。司法が重要なことは言うまでもないが,司法の独立や安定性を追求するあまり,利用者自身がないがしろにされてしまうのは,制度運営上,本末転倒である。また,司法とはいえ,後見制度においては,審判という形式が取られるものの,それを覆すための公平性を保つ制度や,監督業務における透明性,公開性があるわけでもない。その意味で,利用者目線,制度の信頼性・安定性が優先されてしかるべきではないだろうか。

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