アメリカ後見改革の動向


社会福祉士  越川文雄氏


第1回 【はじめに』

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米国は、国連障害者権利条約(以下「権利条約」という)を署名したが、国連イニシャテイブに対する伝統的な反発等のため上院の賛成が得られず批准を見送っている。この条約の柱の1つである後見改革への取組みは、1987年のAP通信の報道を契機として本格化しており、権利条約成立を機に米国の目指す方向が、権利条約に沿うものだとして、改革の動きを強めている。


 後見についての米における「制約最小限の後見代替原則」(least restrictive alternative doctrine)の起点は、1960年の連邦最高裁判決(Shelton v. Tucker)といわれ、公権力は本人の健康、福祉に必要なもののみに限定し、かつ個人の権利に最小限度介入するというものである(ABA the House of Delegates “RESOLUTION113-Report”2017)。この原則は旧モデル法「統一後見保護手続法」(The Uniform Guardianship and Protective Proceedings Act:UGPPA)において既に採用されており、多くの州法ではそれで対応できない場合に限定して後見を利用する(last resort化)建前になっている。この原則に類似したドイツ等が採用している「補充性原則」を我が国は認めておらず(任意後見優先原則はあるが)、権利条約や米国の方向と逆方向の立場を取っている。米では権利条約整合化の視点からもこの原則の徹底と後見のlast resort化へ向けて大きく舵を切りつつある。


 我が国では介護保険発足に先立ち、日常生活自立支援事業の前身である地域福祉権利擁護事業がスタートし、「福祉サービスを必要とする人のセーフテイネット」(当時の厚労省社会援護局長談、月刊福祉2015・6号)の役割を果たしてきた。これは権利条約が採用を求めている「意思決定支援」の先駆的事業と位置付けられ得る試みである。これらを改善、発展させることにより「より制約の少ない後見代替」の充実を図ることが出来る。こうした事業を今後積極的に発展するという方針を打ち立て対外的にアピールすれば、国内当事者だけでなく国連からも高い評価を受けることになると思われるが、残念ながらこうした動きが見られない。


後見改革には司法、警察、福祉行政の壁、特に制度の中核をなす裁判所については3権分立という高い壁がある。それに加え米国の場合、後見は州の法領域であり、連邦と州との間の壁がある。州ごとに異なる制度を持つことによる弊害が高齢化する社会にとってますます大きくなっていると云われ、それを乗り越え地域における本人本位の制度作りに向けての動きを強めてきている。


こうした課題に対応するとともに後見の限定化、質向上更には権利条約整合化を含め世界をリードすべく連邦政府の資金・技術の提供を受け、制度改革に向けての具体的な調査研究、試行錯誤を数多く行っている。かかる米国の動向をインターネットにより入手可能な情報を中心に整理・紹介する。是非米国の高齢化社会に向けての後見問題に対する取組み経験の積み重ねや独創性を持った幅広い改善努力、さらには後見人による不祥事防止対策が依然として未解決の課題となっているようであり、後見人による虐待防止を徹底することの困難性を知って頂き、今後の我が国の本問題への対応の在り方を考えて頂きたい。

なお、我が国は1960年代以降欧米における精神病床削減の流れに逆らって精神病床増床施策が取られ(1968年のクラーク勧告を無視)、世界に例の無い多数の病床数を持つこととなった。遅ればせながら入院患者の地域移行の重要性が認識されるようになった現在においては、この削減が解決困難な大きな政策課題となり、認知症高齢者の受け皿として安易に利用される危険性が顕在化してきている。しかも、我が国法定後見は実態として権利擁護というよりも、ほぼ100%権利制約を伴う、権利剥奪のシステムとなっており、見えざる座敷牢に閉じ込めるようなものである。


わが国は2017年3月に成年後見制度利用促進基本計画を閣議決定し利用促進を進めつつあるが、この制度の現状を権利条約の方向性に沿って欧米に習い大きく転換しない状態で後見利用促進を図ることは、精神病床増床施策と同じ過ちを犯すことになると懸念している。


【注】Shelton v. Tuckerは、後見についての訴訟事件ではないが、この判決において裁判所は、「たとえ政府の目的が正当かつ重大なものであるとしても、その目的がより限定的な方法で達成されうる場合には、その目的を、基本的な人身の自由を広範に抑圧するような方法で達成することは許されない。立法による制約の程度は、同一の目的を達成するより過激でない方法に照らして考えられなければならない」と述べた。(小林1956)


▢⇒第2回

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